―――始まりの音色―――

アイシャをはじめ、カシス、シードル、オリーブの4人は
レイルが行くと言っていた職員室に向かっていた。
いつもなら生徒で賑わっている廊下も、今はこの4人だけ。
静けさを帯びて、まるで別の空間にさえ感じる。
「皆まで来る事なかったのに。」
アイシャは歩きながら、別段、責めたてる訳でもなく他の三人に話し掛けた。
「心配だったから。」
そう答えたのはシードルだった。
「…何が?」
「君が。」
尋ねたアイシャに凛とした声で即答する。
理由が分からなかったらしく、首をかしげ
彼女にしては珍しくきょとんとした表情になる。
シードルはゆっくりと、慎重に言葉を選ぶかのように口を開いた。
「君が襲われて怪我したら、大変だからさ。」
成程、とアイシャは納得した。
確かに、一人でいるときは他の人といる時よりも無防備に見える。
だから、力を求める者が襲ってくる。
それが彼には心配だったらしい。
「皆、アイシャのこと大切に思ってるよ」
「そうそう。第一、お前に何かあったらシャルルが暴れる。」
オリーブとカシスはシードルの言葉に頷いた。
「ありがとう、皆。」
アイシャはその顔に笑みを浮かべた。
嬉しくて、仕方が無いと言うような笑みを。
「さっ、着いたぜ。」
カシスの言う通り、話しているうちに何時の間にか職員室の前まで来ていた。
「じゃあ、レイルを探しま…」
そう言ってアイシャが扉に手をかけた瞬間
「っ!」
職員室から走り出てきた人物と衝突しそうになって
寸でのところで飛び退いて、危機を脱した。
「あ…すみません、ぼーっとしてて…!」
ぶつかりそうになった人物はあたふたと慌てふためき始めた。
「レイル、落ち着いて?」
オリーブが赤子をあやすかのような声で落ち着かせる。
落ち着きを取り戻す為に、相手は一つ深呼吸をした。
銀糸の様な髪、淡い蒼色の瞳。
どことなく、神秘的な雰囲気をもつその人物、
レイル・フィン・ラズベリーは普段どおりの落ち着きを取り戻した
「本当に、すみません。お怪我はないですか?」
「平気。ぎりぎりで避けたから。」
「そうですか…良かった。」
ほっと安堵の息を漏らす。
常日頃より、自分よりも他人が傷つく事を厭う性格なので当然の反応だった。
「今まで、職員室に居たのか?」
「はい。ちょっと話をしてて…」
「そっか」
視線を逸らし言葉を濁すレイルに、カシスはそれ以上の追求しなかった。
誰にだって触れられたくないものはある。
本人が言いたくないのであれば、そっとするのもまた優しさなのだ。
人によっては、それがそっけないと―突き放していると感じる事もあるようだが。
「って事は、まだ教室には行ってないんだね。
じゃあ、早く行ってみようよ。まだ誰かいるかもしれない。」
「そうね。行きましょう、レイル。」
「はい!」
差し出された手をぎゅっと握り返し、歩いていく。
職員室から教室まではそう、遠くなかった。

でも、それ以上に。
一人で歩く時よりも、ずっとずっと近く感じられた。

第1話

第3話

Back