―――始まりの音色―――

「ふぅ…どうして私達が。」
流れる生命の象徴の如き、深紅の髪を風に遊ばせながら
ため息をつき少女―アイシャ・ティルファ―は呟いた。
アイシャはとても特殊な存在だった。
彼女には、普通ではありえないモノが憑いている。
それにより、彼女はここ、ウィルオウィスプで教師達から一目置かれる存在となっている。
しかし、稀にどこからか彼女に憑いているモノについて知り、
その力を欲するものに襲われる事もある。
無論、全員返り討ちとなっているが…
「でも、シャルルはお姉さまと一緒に居られて嬉しいのじゃ。」
独特の言葉遣いを操り、満面の笑みをアイシャへと向ける少女がいた。
藤色の髪に白メッシュという、なんとも珍しい見た目の幼さを残す娘。
アイシャの腰程の背丈と、どことなく小動物のような印象を持っているが
無論、見た目どおりの少女ではない。
シャルル・ド・シフォン。若干11歳という若さで公爵家現当主という切れ者なのだ。
とは言っても、魔法学校に入り、以前より優しくしてくれたアイシャに懐き
あまつさえ、お姉さまと慕うと言う歳相応な愛らしい一面もあるのだが。
「そう…、ありがとう。シャルルちゃん。」
幾分か気分を良くしたアイシャは、母が子を褒める時のように優しく彼女の頭を撫でた。
「ふみゅ〜、お姉さまの役に立てれば良いのじゃ。」
そう言って、また満面の笑みをアイシャへと向ける。
そうしていると、二人はまるで姉妹や母子の様だった。

今、二人はゼン部屋に不幸にも居合わせたが為に、
なし崩しに他の生徒達をバスに連れて行くはめになったのだ。
もう一人少女がいたのだが、職員室に言った後で
教室に居る生徒を連れて行くといって別々になったのだった。
なので、二人で音楽室に行くこととなったのである。

色々と話をしたりしているうちに、目的の場所についた。
扉を開け、中に入ると4人の少年少女がキャンプに付いての話をしている所だった。
「あの…バスの時間らしいから迎えに来たんだけれど…」
申し訳なさそうに言うアイシャに、皆が振り向いた。
「だってさ、早く行こうぜ。待たせちゃ悪い。」
銀髪の青年、カシスが素早く話を終わらせる。
「あのままだったら話がずっと続きそうだったから、丁度良かったよ。」
金髪の少年、シードルが彼女の側に行き、そう耳打ちした。
恐らく、申し訳なさそうな彼女に気を使っての事だろう。
その言葉に、少しアイシャはほっとした。
「いいからはようバスに乗るのじゃ!でないと、また怒られるではないか。」
「あはは、怒ってるのはシャルルの方だけれどね〜」
ハープを演奏する手を止め、のんびりとした口調で深緑色髪の少女、アランシアは
自分が見て感じたままの感想を述べた。
「当然なのじゃ。乗り遅れてしもうたら、元も子もないのじゃからな!」
何を当たり前な事を、とシャルルは言う。
「…シャルル、ずーっと楽しみにしてたから。」
少し遠慮がちに横から声がかかる。
翡翠色の巻き毛の小柄な少女、オリーブ。
彼女の言葉に、一瞬間をおき、顔を真っ赤にしたシャルルは
「な、何を言うておるか!そのような事は…!!」
「そうね。楽しみだね、シャルルちゃん」
「あぅ……………………………………………はぃ」
アイシャの微笑みと言葉に、長い沈黙の後折れるシャルル。
その光景は微笑ましいものだった。
「さて、じゃあ行きますか。」
「そうだね、行こう。」
そう言って、6人はバスへと向かった。


バスに到着すれば、もう既にほとんどの生徒が乗っていた。
しかし、
「レイルはまだ来ていないのかや…?」
ゼン部屋でもう1人、他の生徒を連れてくるよう言われた少女がいなかった。
「どうしたんだろう…迎えに行ってくるね!」
そう言って、アイシャがバスから走り出ていく。
「あ、オレも行く!」「僕も…!」「わ、私も…」
次いで、カシスやシードル、オリーブが出て行った。
「あ、あぅ〜、お姉さまが…じゃあ、シャルルも…!」
出遅れたシャルルが後を追おうと出て行こうとするが―…
「駄目だよ。」
亜麻色の髪の少年、ファル=ダージリンが彼女を静止する。
きっと睨みつけるシャルルの視線を、翡翠の瞳は逸らそうともせず真っ向から受け止める。
「〜!何で止めるのじゃっ!」
「そんなに大勢で行かなくたって、学校にいるんだから大丈夫でしょ?だからだよ。」
ファルの最もな言葉を受けて、渋々彼女はバスに残る事になった。
ただし、アイシャ達が帰ってくるまでの間。
「お姉さま〜、お姉さま〜…」
「怖いから!」
「…お姉さま〜」
と呪詛のように呟きつづける事になるのだが。

第2話

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